吉田トチちトオゲレツブラザース

第3話 隊長〜ぅ! さぶいですぅ〜!! もうダメですぅ〜!!!



話はまだまだ続く。

いつになったらクライマックスの「激沈」シーンになるのか、書いている本人すらも全く分からないのだ。ははははは。

その上会報の1号・2号とも、やたら楽しいタイトルをつけてしまったにもかかわらず、その割に肝心のシーンになかなかたどり着かないことに読者の皆様はイライラしているだろうなぁ・・・と思いつつも、結構期待して読んでくれてたりするんだろうなぁ・・・・と勝手にその姿を思い浮かべて悦に入ってたりしている私なのである。

まぁこれに限らず全てのことに計画性のない筆者であるため、議事進行、いやいや話の進行については、行き当たりばったりということで今後もご容赦いただきたいと思います。




 ところで、前話で第一弥栄丸が水路途中の二股部分で「沈」していると書いたのだが、当人からの申し出によると、確かに艇は「沈」したことは認めた。が、乗組員は寸前に脱出に成功して「沈」を免れていた‥‥らしい。
 このあたりの微妙な解釈の違いについては、「沈」の定義に対する隊内の共通理解が未だ確立していないため、この「オゲレツ隊会報」においては、当面の間は筆者(私)の独断と偏見による解釈で行ってしまうことにする。まぁ私としては単純に面白ければそれでいいのだ。だから、あれは誰が何と言おうとやっぱり「沈」と言い切ってってしまう。そうだ、あれは絶対に「沈」なのだぁ〜

 さて、激流に押しつけられている第一弥栄丸を無事救出し、吉田隊長、海老原副長、杉浦奴隷頭の「レッツゴー3匹」は、(あれれ? いつからレッツゴー3匹になったんだろ??) すぶ濡れになりながらも、中味の軽くなった食糧箱とともに、再度何事もなかったように第一弥栄丸に乗船したのであった。

 そのころ先行する第二弥栄丸の中島・村田はパスファインダーである第一弥栄丸を失ってしまった動揺に加えコンビネーションの悪さがもろに出て、さらにはスキル不足までもが露呈して
 ♪あんまり急いでコッツンコ
 カヌーさんと岩さんがコッツンコ
 あっち行って『ガリガリ』
 こっち来て『ゴリゴリ』 (歌:おつかいありさん)

と酔っぱらいの千鳥足状態で
 「うわぁっ!!」 とか
 「でやぁっ!!」
とか叫びながら、にぎやかかつ必死になって下っていた。

ようやく第一弥栄丸が体制を整え、那珂川を下り始めた。初沈の心の痛手(なんかあるわきゃないのだが)を乗り越え、たらふくメシも食い。パワー全開でこぎ出した。そしてすぐに第2弥栄丸を射程距離追いつめ、そこで奴隷頭杉浦が元気良く
 「隊長ぅ! 前方約30メートルに敵艦発見!!」
と嬉しそうに報告してきた。

「よーし、追撃・撃沈せよ!!」
「全速前進!!」
「アイアイサー!!」

すぐに調子に乗る隊長と副長である。悲しいかな、これがオゲレツ隊の性(さが)と言おうかオゲレツ隊のカラーいや彼らの生き様そのものなのだ。この航海士と機関士と操縦士からなるレッツゴー3匹の辞書には『ほどほど』を意味する言葉はこのときカケラもなかった。

獲物を見つけてしまった彼らの思考回路はすでに
 「何ピトたりとも前を行くことは許せん、私が王者だ!!」
の直結状態になっていて、もうただひたすら第二弥栄丸を追い越し追い抜けしか頭になかったのである。




 その頃第二弥栄丸上では、
 「上班、この先がS字になっています。」
 「行けそうかぁ?」
 「まったくわかりませぇん!!」
 「そうか、んーこっちにはカメがのっていることだし、よーし、とりあえず降りてチェックしてみるか!!」
 と慎重姿勢をとっていた。
そりゃあたりまえの当然の行動なのだ。この寒い季節に誰だって川の藻屑になり果てたくない。そこて、右カーブを曲がらず直進して左岸の浅瀬に乗り上げて艇を停めた。そして上班中島が艇から降りて漕行ルートを見定めていたとき、その傍らを
 「ひゃっほーっ!」
 「ばははーぃ!!」
 「タラリラッタ、リッタラッタ、ランランラン!!!」
 「こらぁ、根性ねぇぞ!!」
 「CHICKEN!! コケーッコッコッコッ!!」
 「よーく見なさい。これが本当のパドラーの姿じゃぁ!! がははははは!!」

と奇声をあげてパドルをあげて罵声を浴びせて、ちょうど第一弥栄丸が流れの中心を怒涛のように全開フルスロットルでそのS字峡に突っ込んでいくところだった。
 「おーっ、ずごい!!」
と半沈村田が歓声をあげれば、その直ぐ先のコース状態を見てしまった上班中島は
 「あ、あ〜あ、知〜らないっと。」
と、冷たくかつニマッと横目で見送るのだった。

 第一弥栄丸は波乗りコースターのようにぼわんぼわんとバウンドしながら下っていく。

 しかし、次の瞬間彼らの発する声が
 「ひゃっほーっ!」から「ぎぇぇっ〜!!」
 「ばははーぃ!!」から「でっでっ、どっどっ!!」
 「タラリラッタ、リッタラッタ、ランランラン!!!」から「ごめんなさぁ〜い!!」
変わるまでには、時間を要することはなかった。

中島・村田・カメの3人が見守る中、第一弥栄丸の姿が河原の草むらの中に一瞬姿を消したかと思うと
 「でえっ!」「でえぇっ!!」「でえぇぇぇっ・・・・!!!」
という絶叫3音Cのハーモニー
 「ぐおん」
という衝撃音の後、草むらの向こうに見える右岸の絶壁に、まるで空に舞い昇る龍のようにと、いやブリーチングする鯨のように、第一弥栄丸の船首がズズズと這いあがったかと思うと、そこから人がパラリパラリと落ちていくのがしっかり見えたのであった。
 まるで映画のスローモーション・シーンを見ているようだった。

 「やった!!」*
 「え、なになに?」
 「激沈!!」
 「え、どこどこ?」
 「ほら。」

と草むらの左を指さすと、そこには船底を見せている第一弥栄丸がゆっくりと流れに姿を現すところだった。
続いて船尾にしっかとしがみついているだっこちゃん奴隷頭・杉浦が、そしてパドル立てて帆掛け船状態の吉田隊長が、最後に仰向けのラッコ状態の土左右衛門・海老原副長がプッカ、プッカと流れてきたのであった。
 「やった、やった、がははははは!!」
 「うわぁ、チンした、チンしたぁ!!」

もう、河原はヤンヤヤンヤの大喝采である。ジャボジャボと泳いで岸にたどり着き、這いあがったズブヌレネズミの情けない姿を見て、追い打ちをかけるように
 「ひぃーひぃー!!」
 「ははははは!!」
と笑い転げる第二弥栄丸クルーなのであった。



 ここで毎回恒例の解説コーナーです。今回は前述の「*」印の「やった!!」についてひとこと。
このような「やった!!」には2通りの解釈ができるんだけども、ここでの「やった!!」は当然ながら期待とそれに応えてくれた歓喜を表現した
 「やった、やった、ばんざーい!!」
であって、痛みを伴った失敗をしてしまった経験からくる
 「うっ、まずい、やってしまった!!」
ではないことは、その後の文面から十分読み取ってもらえているだるう。

 ついでに第二弥栄丸クルーの名誉(なんてあんのかなぁ?)のために言い訳しておくと、普段ならばこういうシチュエーションであれば当然心配して駆けつけて行くところなのだが、カヌーの場合だけは別なのだ。我々オゲレツ隊がやっている程度の川下り(瀬の難易度にすりゃ1,2級オンリー。3級になるとビビって撤退さあ!!)だと、たかだか「沈」ごときで怪我することはまずはない。
 ってことは「他人の沈」「楽しい出来事」=「笑いの対象」と言う図式になってしまうのである。これは我々だけではない。椎名誠氏率いる「あやしい探検隊」「いやはや隊」しかり、本田亮氏率いる「サラリーマン転覆隊」しかりなのである。でもそんなことはこのお遊びカヌー界では、ごくごくあたりまえのことなのさ。




 さて、ひたすら笑い転げる中島・村田コンビに
 「ばかもの、笑っている場合じゃない!!」
 「そうだ、杉浦を助けに行け!!」

と体中から水をしたたらせて帆かけ船吉田土左右衛門海老原が怒鳴る。
 そうは言われても、その情けない姿で怒られても、どうにもこうにも笑いがこみ上げてきてしまって気持ちが締まらないのだ。まぁ、そうもしていられないので、振り返って見ると、あわれ奴隷頭杉浦は健気にも、隊長・副長が自分かわいさに見捨てた第一弥栄丸を岸に寄せようと懸命に水中でもがいていところだった。本当に奴隷の鏡である。エライヤツである。

 しかし、何故か必死になればなるほど、その姿から哀愁が漂ってきてしまうのだ。実にみじめでおかしく、実にあわれでおかしく、実にほのぼのしていておかしく、実になさけなくておかしく、実にのどかでおかしい。
 要するに今のレッツゴー3匹は何をしても「笑い」の対象になってしまうのだった。

 半沈村田が濡れてる片足をひざ上まで突っ込んで第一弥栄丸の船首を引き寄せながら
 「ブふふふふふ」
と笑えば、無沈中島は情けない姿で水面に漂う杉浦を指さして
 「くっくっくっ」
と笑う。

そして村田と中島は顔を見合わせると
 「ブふふふ、くっくっ」
とまた笑い転げるのであった。

 この楽しさ、嬉しさ、喜びは、その場にいた人間にしか判らないだろうなぁ。でも、あの時のあの状況を1人でも多くの人に伝え、そして多くの人にあの喜びを、楽しさを、わななきを分かち合ってもらいたくて、いやそうすることが私の義務であると考え、拙い文章で何分恥ずかしいのだが、ここに会報まで作って発行してしまったという訳なのである。
 ったくばかだよねぇ。

しかし、この会報が1年後に自分の首を思いっきりしめる結果になろうとは、全く考えていなかったのだ・・・・。




 ちょうど時間は4時前。
 この季節、日は西に大きく傾きはじめた頃である。日が落ちるにしたがい、気温はどんどん下がっていくのだった・・・。
 と思うのは上班中島と半沈村田だけらしく、レッツゴー3匹の3人組はまだまだ暑いらしい。思わず晩秋の那珂川で泳いでしまったくらいだから・・・・・!! まぁなかなか元気な中年トリオである。

 「オーイ、中年っちゅうけど、俺はまだ33だぞぅ」 と奴隷頭杉浦が訴えれば、
副長海老原も 「オーイ、俺もまだかろうじて40前だかんな!!」 と叫び、
ついでに隊長も 「おーい、俺だって48なんだぞぅ!!」 とのたまっている。
・・・・ちょっとあんた、48は十分に中年じゃないんでっか? !!

 しかし、いくら暑いとはいえ、水温12℃っていうのは33歳でもさすがにこたえるらしい。這々の体で岸に這いあがった瀕死の奴隷頭杉浦は
 「た、たいちょうガチガチ、も、もう、さ、寒くて動けませんガチガチガチ!!」
と歯が噛み合わない。そんな杉浦の様子なぞお構いなく隊長は
 「そ、そういや杉浦、俺が大切にしていたアメリカ連盟のマグカップはどうした?」
 「た、たぶん川の中だと、お、思いますぅガチガチガチ」
 「なにぃ、あれは日連のアパッチと呼ばれた親父の形見なんだぞ!!」
吉田元茨城県連理事長の名をだされた日にゃ、我々はただひたすらひれ伏してしまうのだ。学習の成果=条件反射とでも言おうか。しかも「形見」と言われれば、もう杉浦はただ引きつるばかりなのである。
 「す、すみません。か、形見なんですか(ヒクヒク)!」
 ただ、よーく考えてみると決して杉浦が悪いワケではない(まぁ無謀にも突っ込んだのが原因と言えば原因なのだが・・・)。隊長が自ら持っていたモノなのである。
 とりあえずぶつけようのない怒りの矛先を単に杉浦に向けていただけなのである。と、その時であった。
 「隊長、報告します。靴が片方ありません。」
 「え、だれの?」
 「隊長のであります。」

副長海老原が2人の間に割って入った。そう言われて、トチちト隊長は自分の足下を見ると
 「あ、あれぇ?」
 「隊長、あのえれっせの靴は、おかあちゃんが夜なべ仕事をして、おととい買ってくれたものなのであります。」
 「い・いやぁ、あのな・・・」
 「た、隊長がさきほど座礁したときに、濡らした長靴の代わりに無理矢理取り上げて・・・・、私はまだ1時間も履いていないんであります。うっうっうっ!!(涙)」
 「だ、だから、そ、そのな・・・・・」
 「・・・えれっせの靴・・・!!」

と、副長海老原は更に詰め寄る。一番弟子の杉浦をかばう副長のナイスフォローか。・・・ん?
 副長海老原はこんな状態でも、さすがに30年間も隊長vsスカウトの関係であったためなのか、隊長の恐さを肌で熟知しているためなのかは知らないが、しっかり「ですます」調は保っているところが悲しい。

 そんな隊長の恐ろしさを全く知らない半沈村田は思わず
 「くっくっくっ(苦笑)!!」
とやってしまったのだ。その場にいた他の3人は、自分にとばっちりがとんでこないために、ひたすら、ただひたすら笑いを堪え、隊長と副長の2人に背を向けて耳をダンボにして凍ったフリをしていたのにである。その辺りの雰囲気を察知できない村田の若さであった。

 「おぅ村田ぁ、おまえ、ちっと探して来い。」

 逃げ場を失った隊長の矛先は、当然のようにすべて村田に向けられてしまった。
 他の者たちは内心「ホ〜〜ッ」と安堵していたが、副長に助け船を出され気を緩めたところをついつい見せてしまった奴隷頭・杉浦にも隊長の容赦ない攻撃が飛んできた。
 「そうだ杉浦、おまえも濡れているんだからちょうどいい、ちょっと潜って探してこい!!」
 「えーっ??? も、も、潜るんですかぁ?!!」
 「あったりまえだ。マグカップとおまえの体、どっちの方が大切だと思ってんだ? とーぜん親父の形見のマグカップに決まってるじゃないか!!」

あわれ杉浦・村田の運命やいかに・・・。

次号につづく


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