吉田とちひとオゲレツブラザース

第2話 隊長〜ぅ! ごめんなさ〜い!! ぶつかりまぁ〜す!!!


 さて、前号(第1号)から話は続くのだ。

 結局のところ、今回の漕行はカナディアンカヌーの「第一弥栄丸」「第二弥栄丸」の2艘だけになってしまった。

 隊長艇はみごと破損、奴隷艇も漕行断念となったが、それでも一行7人のうち5人がカナディアンに分乗し、残った2人が車で伴走することになった。

 今回の目的がビデオのロケハンと言うこともあって、これにビデオカメラマンが1人加わって、「第一弥栄丸」には船長・海老原、水先案内人・杉浦それに隊長吉田がセンターに陣取る。
 本来なら船長キャプテン水先案内人パイロットとでもカッコつけて言うのだろうけど、我々の風貌を見る限りでは、「船頭」「見張り」とでも言った方がやっぱり似合ってしまうのだ。そもそも「第一弥栄丸」などと名付けてしまう純和風演歌どっこい感覚から言っても、それは十分にうなずけるだろう。

 一方の「第二弥栄丸」には、船長・中島、水先見物人村田カメラマンA(略してカメと呼ぶことにする)が乗り込む。村田については、まだこの時点では「水先案内人」には出世しておらず、まだ単なる「水先見物人」にすぎなかった。この漕行が終わる頃には「案内人」に昇格するのか・・・・・。

 ところで、ファルトボートとはご存知の通り、船体を構成する骨組みの回りを船体布という防水の布で覆っている組立式のカヌーのことで、船体布はコーティングはされているが所詮は「布」なのである、したがって岩の角などにあたると簡単に破けてしまうのだ。軽く携帯性はいいが、脆いのが玉に瑕である。隊長艇の破損原因もそこにあった。
 一方の我々のカナディアン合成樹脂製で、ちょっとやそっとの衝撃程度ではビクともしない。傷がうっすらと付く程度なのだ。だからゴリゴリ・ガリガリの強引漕行ができてしまうのである。
 安定性では全然ファルトにおよばないが、我々のような無謀で強引な、細かいところまで気が回らない、そんな集団には、まさにうってつけな艇と言えるだろう。
 ファルトがうぶな少女だとしたら、カナディアンはオバタリアンとでも言おうか....それはこれからすぐに証明されることになる。

 さてさて、黒羽市の那珂川大橋下で2艘の艇に分乗した我々は、水位が低くてザラ瀬が続く那珂川を「ゴリゴリ、ガリガリ」と底を水中に隠れている岩にこすりつけながら順調に下っていくのであった。
 いくら水量がないと言っても川の中程の流心にはカヌーの漕行がとりあえずできるだけの水路はあるもんである。
 しかし所々浅くなっているところもあり、そこだけは降りてライニング(降りて艇を曳いていくこと)することになってしまう。

 今日は朝方は木枯らしがふいていたが、今の日差しは暖かく、川の両岸の紅葉と青空コントラストとその美しさは、まるで写真集から切り取ってきたようである。本当に素晴らしい景色の中での絶好のカヌー日和になった。

 第一弥栄丸の海老原&杉浦のマッチョ「アイアミジョロロ」コンビは、力強いストロークでぐんぐん進んでいく。あっという間に第二弥栄丸を引き離し、カーブを連ねるうちに全く見えなくなってしまった。おいおい、こんな素晴らしい景色を見ないなんて、なんてもったいないんだ。と大きく差をつけられた第二弥栄丸クルーはつぶやいていた。単に負け惜しみである

 「上班、あんまり川が広くてどのコースを進んだらいいのかわかりまっしぇん!」
 「よし、とりあえず流れが一番速い所に艇をのせとけ!」
 「はい、わかりましたぁ!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「村田ぁ!」
 「何ですかぁ?」
 「岩は避けるんだぞ!! 岩は!!」
 「はい、わかりましたぁ!!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「こらぁ、村田ぁ、ちゃんと前見てぶつかる前に知らせるんだ!!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「わかりましたぁ!!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「何やってんだぁ!!」
 「すみませぇん、ずっと『ガツン、ゴリゴリ』ですう!!」

村田は既にパニックに陥っている。次から次と押し寄せる隠れ岩に翻弄されまくっているのだった。全く艇のコントロールができずにおろおろしている。
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「村田ぁ、パドルを動かせ!! 休むなぁ!!」
 「はいーっ。でも上班、何処に岩があるのかわかりませぇん!!」
 「水の中にあるんだ、よーく見ろ!!」
 「水が濁っててわかりまっしぇーん!!」
 「気力で見つけだせぇ!!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「今、ぶつかりましたぁ!!」
 「そんなことわかっている。ぶつかる前に、ちゃんと報告するんだ!! 右か?! 左か?!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「そんなこと言ったって!!」
 「こらぁ、見てばかりいないで、手を休めるなぁ!!」
 『ガツン、ゴリゴリ!!』
 「はいーっ、でも両方いっぺんにはできませぇん!!」
 「上班〜ん、!」
 「今度はなんだぁ?!」
 「瀬を抜けましたぁ!!」
 「・・・・・・・・・・」

ヘロヘロ状態の第二弥栄丸なのであった。




 流れが穏やかになったところで、村田のバウに不安を隠しきれない上班中島のレクチャーが始まった。
 「村田ぁ、いいか良く聞けよ。流れが分かれてるところには岩や杭があるんだぞ。V字に見えるとこな。それから水が盛り上がっているところには水中に隠れ岩があるんだ。わかるかぁ?」
わかるはずがない。
 「あれですかぁ?」
とそれでも必死になって右斜め前方を指さす。
 「あういうのは逆V、ダウンストリームっていうんだ。流れが合流してるとこだ。あれは真ん中を『かまわず進めぇ!』だかんな。」
 「それじゃあ、これのことですかぁ?」
と艇の直ぐ前を指さしている
 「そう、それ。えっ!!」
 「バキン、ガリガリ!!」 
 「ばかたれ〜ぇ、早く言うんだぁ〜!! うりゃあ!!」
言い終わらないうちに艇が横を向いて大きく傾いた。思わず中島上班は腰を浮かして足とパドルでバランスをとり、村田は片足を川に突っ込む「半沈」状態で艇をなんとか安定させるのだった。
 「うわぁ、こわかったぁ!!」
 「・・・・・・・・」
 バウ(カヌーの前部)が岩に当たり艇は180度も回転してしまったのだ。まぁ直ぐに態勢を立て直すことができたので取りあえず一安心。カメの機材は防水処理をしていないのでひやひやもんだったのだろう。顔がめいっぱいひきつっていた。

 しかしホッとしたのもつかの間だった。前方から今度は瀬の音が聞こえてきた。さっきよりも相当大きい。
 見ると、そこは土砂が両脇に堆積して、その間を細い水路が蛇行しながら走っている。川の水がすべてそこに集結していて、結構な流速のまるでジェットコースター状態になっているのだ。
 「・・・・上班、こわいです・・・・!」
 「村田ぁ、ひるむなぁ、漕げ、漕ぐんだぁ〜!! (おれだって恐いんだぁ!)」
村田も中島上班も必死で漕ぐしかなかった。カメはカメラを回すのも忘れてただひたすら固まっていた。第二弥栄丸は未だかつて経験したこともないスピードで、細い水路をジェットコースターのように突き進んでいくのだった。

その時である。
 「じょ、じょ、じょうは〜ん、ま、前〜っ!!」
 「え・・・・・っ!!」
見ると第一弥栄丸が二股に分かれている水路の股の部分に突っ込み、艇が横倒しに水路を塞ぐように思いっきり沈しているのだ。
 「でぇぇぇぇぇっ!!」
隊長をはじめ副長も奴隷頭も水の中に腰まで入り、艇を復帰させようと頑張っているが、すごい水圧のためにあれだけ丈夫なコールマンのカヌーがぐにゃっと曲がってしまっているような状態で、ビクとも動かないようである。
 このまま行けばそこにもろに突っ込むことになってしまう。ピ、ピンチだ。
 「村田、右だぁ、右の窪みに乗り上げろ!!」
 「わ、わかりましたぁ!!」

村田はバウの右側で必死にバックストロークで水をかきむしる。中島は必死でフォワードストロークしながらパドルでさらに微調整をかけ、窪みめがけて艇のコントロールを試みる。
 しかし、流れは思った以上に速くそして強く、第二弥栄丸は期待通り、やっぱり接岸に失敗してしまったのである。そんなワザなんぞあろうはずがない。
 「でえっ!!」
 「隊長〜ぅ、逃げてくださぁ〜いっ!!」

こっちを向いた3人の顔色が変わった。真っ正面に第二弥栄丸が迫っていた。しかも逃げようにも逃げられる態勢でも、そんな時間もなかった。
 「ごめんなさぁ〜い!!」
 「ゆるしてぇ〜!!」

村田は必死で片足を水中に突っ込みゴム長で川床を蹴って、中島もパドルを水中に突っ込みやはり川底に押しつけガリガリガリとブレーキをかけて艇を止めようとしていた。

 しかし、その場にいた誰もが次の瞬間に起こることを確実に予想し、為すすべもなくただ思わず目をつぶるしかなかった。
 「ぐぁっりっ!!」
 とうとう第二弥栄丸は回避することができずに第一弥栄丸に激突してしまったのだ。

“ところが奇跡か神憑り、居並ぶ名馬を牛蒡抜き・・・・♪”(走れコータロー)』
 なんて歌があったが、必死になって艇をコントロールした努力が報われたのか、第二弥栄丸は第一弥栄丸の中心でなく先端付近にぶつかったのである。柔軟にして強靭な樹脂RAM-Xできている2艘の艇は、ガリン・ズリズリと摺りながら衝突の衝撃を和らげることができたのだ。

そのため衝撃は思ったほどでなく、中島も村田もカメも艇から放り出されずにすみ、第二弥栄丸は隊長達の傍らを
 「ズズズズズ...」
と抜けていくことに成功してしまった。そして村田の再三なる片足つっこみ半沈という究極の艇コントロールで、直ぐ下流で砂利の岸に乗り上げ停まることができたのだった。
 しかも何とその上、その衝突の衝撃で第一弥栄丸は岩から離れ脱出に成功することができたのである。いやぁめでたしめでたし、結果オーライである。
 そして、この功績により、奴隷村田「半沈村田」を名乗ることを許されたのであった。

しかし、最大のピンチが回避されてしまうと、細かい問題が浮上してくるものである。
 我々も場合も例に漏れず出てきたのであった。第一弥栄丸に積載していた食料入り段ボール箱が浸水し、中の物が水浸しになっているのを見た隊長が
 「おい、俺のいちごポッキーは無事だろうな!!」
この一言がきっかけとなり
 「うわぁ、俺のデラックス肉まんがふにゃふにゃだぁ!」
 「俺の鮭のおにぎりが、鮭茶漬けになってまぁす。」

・・・とまぁ、何とも情けない会話が続く。ダイの大人の、しかもボーイスカウトのそうそうたるリーダーの会話かいな、全く。
 「おい中島、おまえのエビ天丼、ゲットな!!」
 「な、なにぃ?!!」
それは許せん。昼食用にセブンイレブンで海老天丼を買って食料箱に入れておいたのである。これなら沈しても大丈夫とと思っていたが、こういう攻撃に遭うとは・・・・信じた俺が甘かった。やはり「信じる者は騙される」のだった。
 「お・・おれの昼めしぃ〜!!」

傍らで上班・中島のうろたえる姿をザマー見ろとばかりにニマっとして見ていた村田だった。が次の瞬間・・・
 「おっと、これは幕の内弁当じゃないですか、おっと、水が入っている。こりゃもぅ食えないよなぁ!!」
 「あ、それ俺の・・・・・あぁぁ・・」

無駄な抵抗であった。両艇の間には深くて冷たい川が流れているのであった。
 「う、まずい。こんなまずいもの他の人には食わせられないなぁ!!」
 「いや、ほんとほんと、実にまずい、まずい!!」
 「いやいや、ほんとにまずいっすよねぇ!!」
吉田隊長、海老原副長、杉浦奴隷頭の3人は、水浸しになったダンボール箱の中の食べられるものを次々と食べあさっていくのであった。

その時、村田が裏切った。
 「隊長〜ぅ、僕にも何かちょうだい〜っ!!」
 『な、なんて情けないヤツなんだ。プライドってものがないのかぁ、おまえは!!』
と俺が言えなかったことをこいつはあっさりと....。

ごそごそと箱をまさぐっていた杉浦奴隷頭は、1本の魚肉ソーセージを投げてよこした。村田はそれをうまくキャッチ、それを食べようとした瞬間
 「村田、それよこしな!!」
 「っ!! だめっす。これはぼくのもんです!!」
 「ええい、よこせ!! 奴隷の分際で逆らうかぁ!」

今度は第二弥栄丸で争奪戦が繰り広げられるのだった。隊長以下、第一弥栄丸乗組員は
 「バカなやつらよのぅ」
 「お代官、まったくでごさいます」
 「越後屋、おまえも悪よのぅ」
 「へっへっへっ」
3人はこっちの行状を高見の見物である。

ああ、悲しいかな。しかし、これもまたオゲレツ隊それそのもの。「今日の見方は明日の敵」「信じる者は騙される」を地で行くうずまく人間関係を剥き出しにしたあられもない真実の姿なのであった。




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