ウルフカブス ハンドブック

刊 行 の 言 葉

 本書は、1957年の、スカウティング創始50周年およぴ、創始者べ一デン・パウエル卿生証100年祭を記念する行事の一つとして、日本連盟が企画した記念出版の、第4番目の刊行本である。

 われわれの連盟の前身である少年団日本連盟は、「幼年健児教範」という書名をもつて、この訳本を出したことがある。多分その原本は1925年版(第5版)によったものと想像される。原本は、その後、幾分改訂されているから、もし、この旧訳本があったとしても、おそらく、今日の用にはたたないであろうし、事実、戦火で焼失して現存するものは少ない。よって1957年版の原本によって新訳することとし、先に、「Scouting for Boys」を訳出した中村知氏を煩わし、それを更に古田誠一郎、小林運美両氏の手で整理した次第である。

 本書を一読する読者は、本書の内容が、日本で現在実施しているカビングの組立と、多少ちがっている点に気づかれることと思う。そのわけは、本書は、世界各国のカビングの素形であり、公分母であり、日本のカビングは、この公分母を分母としての、分子であることを、了解されるならば、疑点も、たちどころに氷寄することであろうし、同時に、この公分母を領得することによって、その分子であるところの、日本カビングをも一層、深く、理解されるものと信じて疑わない。本訳書刊行の意図も実は、その点にあるのである。

 いかに日本のカビングが成長し、発展しても、もしこの公分母を見失ったならば、もう、カビングではなくなってしまう。それは、異物でしかない。

 この点を、特に、指摘して読者の、指針としたい。

昭和35年6月
ボーイスカウト日本連盟
総 長  三 島 通 陽

解  題

 1907年に生まれたスカウティングの、弟分として、同じ英国で、カビングが生まれたのは、1916年の12月であった。このカビングの、よりどころになった本が、本書の原本である 「Wolf Cub's Handbook」である。

 これは、創始者ベーデン・パウエル卿の創案を書いたもので、自分で筆をとり、バークレイ女史が、その編集を助けた。初版は、1916年12月に出された。

 この新しい少年教育法に「ウルフ・カブ」即ち「オオカミの仔」という風変りな名称をつけた理由は、本書の、「第1食」に、その説明がある。立派なスカウトのことを、土人仲間では「オオカミ」とよんでいる。君たちは立派なスカウトになる子供だから、オオカミの仔、(ウルフ・カブ)だ、というのである。この着想が、文豪キプリングの傑作オオカミを主題とした「ザ・ジャングルブックス」のストーリーと結びついた。

 「ジャングルブック」の第1は、1894年(キプリングの29才の時)第2はその翌年書かれた。当時、キプリングは、米国にいたが、1898年、故国の英国に帰り、Burwashに住んだ。一方、B-Pは、1912年結婚、1913年Ewhurst Placeに住んだが、ここはBurwashに近いのである。キプリングは、その名作「キム」のため、1907年ノーベル文学賞をもらっている。この「キム」も、B-Pによって「キムのゲーム」となっている。この両人は、1913年以来、交友をつづけたに相違ない。キプリングは、こころよく、B-Pに協力したので、ここに、ウルフ・カブという構想が、実ったのである。
オオカミの、えさという意味で、第1食だの、第2食だのとなっている。

 このWolf Cub's Hamdbookは、昭和2年、少年団日本連盟で翻訳され「幼年健児教範」という書名で出版されたが、その年の夏、故佐野常羽先生が初めて、中央実修所のカブコースを山中で開かれた。これが日本のカビングのスタートであった。但しその前年、九州飯田高原で、細野浩三先生を所長とした最初の幼年部地方実修所が開かれたが、これは、試行の程度にすぎなかった。

 佐野先生は、ギルウェルのカブコースを、日本人としては最初に修了され、純粋のウルフ・カブを日本に伝えられた。そのためにも、邦語版の必要がおこって、訳されたのである。

 日本の狼は、1904年頃に死滅して1頭も居なくなったそうであるが、この、ウルフ・カブもなかなか、日本では育たなかった。昭和7年12月17日、文部省の出した訓令は、いわゆる学校少年団なるもので小学枚全児童を対象として作ることを奨励したため、カビングというような、外国から入ったものは、なじみ難くなったのである。

 戦後、米国流のカビングが、日本に導入きれ、これが漸次、日本人の生活に沿うよう改められて、今日に至っている。この流儀(即ち、カブスカウティング)と、ウルフ・カビングとの間に、カビングとしての本質に、違いはないが、手法においては、大体、次のような相違がある。
  1. ウルフ・カブ方式にあっては、カブはまだ、スカウトではない。故に、カブスカウトとは呼ばない。
  2. ウルフ・カブは、野外本位に蒋動するが、カブスカウトの方は、その家庭と地域社会を、訓育の場とし、時として野外に及ぶ。
  3. カブスカウトは、年令(或いは学年)に応じて、進級するが、ウルフ・カブでは、ボーイスカウト同様、年令に限らず、テストをパスすれば進級できる。
  4. 2で説明したように、カブスカウトの方は、家庭と地域社会を訓育の中心とするから、デン(集まり場所)というものが重要視され、これが「組」組織の名称にも単位にもなれる。ウルフ・カブの方では「組」は「シックス」(6人組)とよばれ、デンは単なる集会場所にすざない。
  5. 従って、ウルフ・カブには、デンマザーも、デンチーフもない。唯、隊付格のバルーだの、バギヤーだのと名づける先生がいる。そのほかにオールド・ウルフとよぷ兄さんがいる。
  6. ウルフ・カブでは、訓育は、パック(隊)中心であり、カブスカウトでは、デン(組)が中心である。隊訓練は月例会としてあるにはあるが、それは、まとめをするにとどまる。
  7. 進級制度、技能章の組み方においてもだいぶちがいがある。ウルフ・カブでは、全部が、オオカミで、1つ星、2つ星の等級あるのみだが、カブスカウトには、日本の、ウサギ、シカ、クマ、米国の、オオカミ、クマ、ライオンのように色々ある。技能章という名前も、矢章とよぶし、そのとり方もちがう。
 以上のような、組立上のちがいがあるので日本の指導著は、その点をよく、のみこんで本書を読まれたい。

 かようなわけで、本番の第1部と、第2部とは、参考にする程度にとどめてよいが、巻末の、第3部は、B-P理論のエッセンスであるから、これは、再読、3読、重読されてカビングの本質を、吟味されるよう望む。

本書の第T部と第U部は・・・・カブたちのための読み物であり

第V部は、指導者のための指針である。
 但し、第T部、第U部の中にも指導者への示唆が載っている。

THE LAW OF THE WOLFCUB PACK

  1.The Cub give in to the Old Wolf;
  2.The Cub does not give in to himself

ウルフ・カブ隊のさだめ

  1.カブは、オールド、ウルフにしたがう
  2.カブは、自分にまけない

THE WOLF CUB'S PROMISE

I promise to DO MY BEST---
To do my duty to God, and the Queen
To keep the Law of the Wolf Cub Pack、
and to do a good turn to somebody every day


ウルフ・カブの やくそく

ぼくは、ベストをつくして
 神と、女王とに、まことをつくし
 ウルフ・カブ隊の、さだめをまもり
 日々、だれかに、善行をすることを、やくそくいたします


ラッジャード・キプリング氏にささぐ

 われわれの、若き人々に、正しい精神を吹きこむことに、偉大なお仕事をなきったラッジャード・キプリング氏に対し、私は、その著書、誰も真似の出来ない立派な「ジャングル・ブック」を、この、私のテキストに、引用させて頂いたことを、深謝申上げます。

 それとともに、同書の出版社である、マックミラン全社に対し、同書からの抜粋を許して下さったご親切を厚く感謝いたします。

                       B-P

はじめのことば

 こどもは、みな、オオカミのこどものような・ものすごい食欲をもっているものです。この本は、ある1ぴきの、年よりオオカミが、わかいオオカミどもにあげる、ごちそうなのです。おいしい肉もあるし、かみごたえのするかたい骨もありますよ。
 けれども、これにむしゃぶりつくカブは、やわらかい肉ばかりでなく、かたい骨もよく、かみくだき、あぶらみやあぶらのないあかみといっしょに、されいにたべおわるでしょう。
 私は、カブが1食ごとによろこんでたべ、からだを強くすることを、のぞんでいます。

                       ベーデン・パウエル

WEBに掲載するにあたって
 この「ウルフカブス・ハンドブック」は、基本的にカブスカウトが見ることはないと思われます。カブ隊の指導者がカブスカウトについてより深く知るために読むと仮定して、読みやすいように「かな」を「漢字」にしたり、「、」を省略して文を繋げたりの加工をしています。あらかじめご了承ください。